拝啓
台風一過、貴館におかれましては益々ご健勝のことと存じます。
過日、福島県の小説家鬼生田貞雄について、電話にて調査ご対応いただいた伊藤千広でございます。その節はたいへんお世話になりました。
電話にておはなし申し上げていた大原富枝「鬼生田さんを悼む」を同封いたしましたので、ご確認くださいます様。
このたびは高知と福島との間で、このようなさやけき形であれ、文学をつうじてご縁を持てたこと、たいへん嬉しく存じております。
略儀ながら、お手紙にてお礼を申し上げます。
敬具
伊藤千広
高知にある、大原富枝文学館から、お礼の便りとともにクリアファイルがとどいた。大原富枝が飼っていた犬なのだろう、三匹の犬が描かれて、デザインをされている、かわいらしいモノなのである。
文学の研究者、などというものは、言い換えれば「不審者」の謂いである。これはだんじて自嘲のたぐいではなく、鬼生田貞雄という作家を追い続けてきて、私はあらゆる機関、人物たちから、これまで、そうした拒否の態度をしか受けたことがなかった。それによってもとよりいじけきっている心がいじけて、挫けたこともいくたびもあった。それがやっと「やっていて良かった」というまっとうで、素直な心持ちを抱くことができて、うれしい。
それがおおよその、ほんとうのところである。